2017年04月22日

生前退位をめぐって

天皇陛下の退位をめぐる有識者会議の最終報告書が発表されました。退位後の制度設計についての提言をまとめたもので、この最終報告書が出される前に政府がまとめた特例法の骨子案のような、与野党対立を招きかねない大きな問題点は含んでいないようです。安倍政権はこの最終報告書も踏まえつつ、陛下の退位実現のための法案を早期に国会に提出する意向のようですが、波乱なく法案成立に至るかどうかは、予断は許しません。


衆参両院の正副議長のもとで進められてきた国会での与野党審議を受けて、政府がまとめた特例法の骨子案に対しては、与野党合意を無視したものだとkodomo-bb3s.gifの批判が出ています。今上陛下一代限りの特例法で対応したいとする与党と、憲法の規定どおり皇室典範を改正して恒久法とすべきだとする民進党などの野党との間には、埋めがたい溝がありましたが、この溝を埋めるべく、皇室典範に退位条項を付則として書き込むことで双方が合意しました。しかし骨子案ではこれが削除された上に、今上天皇一代限りの特例法であることと明示するために、法案名の「天皇」を「天皇陛下」に変更したという。


政府の骨子案では、与野党合意を無視した内容に変えられたのは事実のようですが、骨子案を野党各会派に提示して検討を仰いでいますので、批判を受けてまとめられる最終的な政府案は、合意に近い内容に変更される可能性もゼロではありません。しかしあえて合意案を無視した骨子案を野党に示した安倍政権の姿勢からは、批判は百も承知の上であったともうかがわれますので、陛下一代限りという基本線は譲らないだろうとも思われます。目下、安倍政権は問題百出ですが、この退位をめぐる問題は今後の国のあり方に根本的な影響を及ぼす重大事ですので、国会任せにせずに、日本国民全体で考え、論議を深化させる必要があると思います。


この問題の究極の論点は、古代からつづく、世界に類のない伝統を保持する天皇制をいかにして維持していくのか、この一点にあると思います。安倍政権というよりも安倍総理が陛下一代限りの特例法にこだわるのも、この世界に稀有な伝統的な天皇制を守りたいとの一心から出たものだと思われます。加えて皇族数の減少という厳しい現実もあります。皇族数が減少する中で生前退位の制度が恒久化されるならば、天皇制そのものの消滅という事態にまで至る可能性もゼロではありません。民進党などはそれを避けるために、女性天皇制ないしは女性宮家の創設を主張しています。中でも、もっとも実現可能性の高い女性宮家の創設を、退位の制度化とセットで提案していました。


女性宮家の創設は、女性天皇をも想定したものだと思われますが、これほど重大な問題を、急を要する陛下の退位問題とからめて提案してくる民進党の軽率さにはあきれています。退位の恒久的な制度化は皇族数の減少への対策なしには成り立ちませんので、民進党も女性宮家の創設をセットで提案せざるをえなかったのでしょうが、この問題の究極の論点に立ち返るべきではないかと思います。


日本の長い歴史の中では、女性天皇が在位した時代のあったことは事実ですが、この歴史的事実を根拠に、現代においても女性天皇の誕生は日本の天皇

制の伝統を損なうものではないとの議論も根強くつづいています。四民平等の民主主義の現代においては、男性の宮様も女性の宮様も民間からお相手を選ばざるをえません。女性宮家が創設されると、お相手の夫君となられた男性も皇籍に入られ、皇族の一員となられます。仮にその女性宮様が女性天皇になられた場合、その夫君は皇后様のような立場に置かれるわけですが、皇后様のようなお役目を務めることが可能なのかどうかは非常に疑問です。


古代と現代との最大の違いは、古代ないしは明治以前には明確な身分制度があったのに対し、現代では皇族を除けば全て平民です。身分制度のもとで古代では、一部の有力貴族とはいえ、貴族と皇族の婚姻も一般的に行われていましたし、臣籍降下という皇族から臣下(貴族)に降下する例も多数あり、貴族と皇族との垣根は非常に低い。天皇と臣下という身分上の違いはあったとはいえ、日常的に交流している天皇(皇族)と貴族の世界観には、そう大きな落差はなかったものと思われます。


一方、ごく少数の皇族と平民(民間人・一般国民)以外には存在しない現代では、両者の落差は非常に大きい。しかも現代の天皇は政治の実権は持たず(世俗からは離れ)、日本国民統合の象徴というお役目を負っておられます。象徴という抽象的なことばで表現されているお役目を、実際的な行動として果たされるのは、やはり大変なことだと思われます。天皇は負担になるようなお仕事はせずに、存在するだけでいいとの極端な意見もありますが、確かに天皇には存在するだけで象徴たりうる側面もあると思います。こうした天皇の存在感は何に由来するのかといえば、憲法や法律では表現しがたい、古代からつづく天皇家の長い伝統によるものではないかと思います。


この伝統は男性皇族のみならず女性皇族方にも受け継がれていることはいうまでもないと思われますが、女性の宮様と結婚されて民間から皇籍に入られた男性が、国民の敬意を受けるべく皇族としての資質を身につけていく道筋はあるのでしょうか。その場合、夫君である民間人男性が女性皇族に従うという関係にならざるをえませんが、男女同権どころか、女性上位すら珍しくはない現代とはいえ、こうした夫婦関係が永続しうるものなのかどうか、非常に疑問を感じざるをえません。皇族という非常に特殊な世界のこととはいえ、夫である男性の意向が強く働くことになるのではないかと思います。当然のことながら、皇室の伝統に大きな変化が生じる可能性は高くなります。


女性天皇を考える場合、身分制度下にあった過去の時代と、四民平等下で一握りの皇族と平民(一般国民)しかいない現代とでは、その結果の及ぼす影響は天と地ほどの違いが生じる可能性のあることも考慮すべきだということです。皇族数の減少は、緊急に対策を考えるべき国民的課題ではありますが、陛下の退位問題に絡めて、拙速に女性天皇や女系天皇を可能にするような案を提出すべきではありません。緊急性を帯びながらも慎重に検討を重ね、安定的な皇位継承が可能となるような対策を考えるべきだと思います。また生前退位は、識者の指摘にもあるように、天皇の政治利用を招きかねない危険性をはらんでいることにも留意していただきたい。

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posted by 久本福子 at 23:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 社会時評
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